ステントを使用しないカテーテル治療
近年、心臓カテーテル治療は進歩を続けており、「ステントを使用しない」新しい選択肢としてDrug-coated Balloon(DCB:薬剤塗布バルーン) が注目されています。
当院でも、患者さんの血管や病変の状態を慎重に評価したうえで、条件が整った方に対してステントを残さないカテーテル治療としてDCB治療をご提案しています。
1 DCB(Drug-coated Balloon)とは?
DCB(薬剤塗布バルーン)は、金属ステントを血管内に残さないカテーテル治療です。
通常のステント治療では、狭くなった血管を広げたあと、金属の筒(ステント)を血管内に留置して形を保ちます。一方、DCBでは、薬剤が塗られたバルーン(風船)を狭い部分で短時間ふくらませ、薬を血管の内側にしみ込ませることで、治療後の再狭窄を予防します。
- バルーンをふくらませる時間は、通常数十秒程度です。
- 薬剤が血管の壁に行き渡ったあと、バルーンは抜き取られます。
- 治療後、血管内には金属や器具が残りません。
このように、DCBは「薬だけを残して器具は残さない」という特徴を持つ、
ステントを使用しない新しいカテーテル治療です。
2 DCBで期待できる主なメリット
1. 血管の自然な動きが保たれやすい
ステントを留置すると、その部分は金属で支えられるため、どうしても血管のしなやかな動きが制限されます。
DCBでは金属を残さないため、血管本来の収縮・拡張といった生理的な動きが保たれやすいと考えられています。
2. 将来の治療選択肢が広がります
一度ステントを入れると、同じ場所に病変が再発したときや、将来バイパス手術などが必要になったときの選択肢が狭くなる場合があります。
DCBは「何も残さない治療」のため、
- 将来、再度カテーテル治療を行う場合
- 場合によってはバイパス手術を検討する場合
などにも、治療の自由度が高い状態を保ちやすいという利点があります。
3. 二剤抗血小板薬(DAPT)を短くできる可能性
ステント治療では、ステント内の血栓(血のかたまり)を防ぐために、二剤抗血小板薬(DAPT)を一定期間続ける必要があります。
出血リスクの高い患者さんでは、薬の内服期間が治療選択に影響することも少なくありません。
DCBでは血管内に金属を残さないため、症例によってはDAPTの期間を短縮できる可能性があります。
これにより、出血リスクの高い方や、長期間の内服が負担になる方にとってメリットとなることが期待されます。
※DAPTの期間は、病変の状態や全身のリスクにより主治医が個別に判断します。
3 研究データからわかっていること ― 小血管・大血管・日本のレジストリー ―
DCBは、世界中で臨床研究が行われており、「ステントを使用しないカテーテル治療」としての有効性と安全性が徐々に明らかになってきています。
小さな血管(小血管)での成績
海外の大規模研究である BASKET-SMALL2研究 では、小さな血管の病変に対して、DCBと薬剤溶出ステント(DES)を比較しました。
その結果、1年後の心臓のイベントや再治療の割合はほぼ同じであり、小血管病変においては、DCBがステント治療と「遜色ない」成績であることが示されています。
小血管では、もともとステントが入りにくかったり、ステントを入れると血管の動きが失われやすかったりするため、ステントを使わないDCB治療のメリットが発揮されやすい領域と考えられています。
大きめの血管での成績
大きめの血管に対するDCBの成績は、これまでの研究では結果が分かれ、議論が続いていました。
しかし、近年の SELUTION DeNovo研究 では、新しいタイプの薬剤バルーンを用いた治療戦略として、
- 「DCB + 必要時のみステント追加」のグループ と
- 「はじめからステントを留置する」グループ
を比較したところ、1年後の心臓イベント(心筋梗塞、再治療など)の頻度は両群でほぼ同等であることが示されました。
また、この研究ではDCBグループの約8割の患者さんがステントを使わずに治療を完了しており、「ステントをなるべく入れたくない」「将来の選択肢を残したい」というニーズに応えうる結果といえます。
日本の実臨床データ(ALLIANCEレジストリー)
日本国内の多施設で行われた ALLIANCEレジストリー研究 では、日常診療の中でDCBを用いたカテーテル治療がどのような成績であったかが調べられました。
- 約1,800人という大規模な患者さんが登録され、
- 多くの症例で血管内イメージング(IVUSなど)を用いた慎重な病変評価・前処置が行われました。
その結果、1年以内の主要な心臓イベントは4.7%と低く抑えられ、「適切な病変準備を行えば、DCBは実臨床でも安全かつ有効に使用できる」ことが確認されています。
これらの結果から、
- 小血管では特に有用であること
- 大きめの血管でも、新しいバルーンを用いた戦略でステントと同等の結果が得られる可能性があること
- 日本の現場でも、低い再治療率と良好な安全性が報告されていること
が示されており、DCBは今後さらに重要性が高まるカテーテル治療と考えられています。
4 当院でのDCBカテーテル治療の特徴
当院では、以下の点を重視してDCB治療を行っています。
- 血管内イメージングを用いた丁寧な評価
IVUSやOCTなどを用いて血管の内側を詳しく観察し、病変の長さ・硬さ(石灰化)・血管径などを正確に把握します。 - 「病変の前処置」を重視した治療方針
DCB治療では、バルーンを膨らませる前の準備(プレダイレーション)が非常に重要です。
適切なバルーンサイズや、必要に応じて専用のバルーン(スコアリングバルーンなど)を用いて、残存狭窄をできる限り減らし、血流を良好にしたうえでDCBを使用します。 - ステントとDCBを含めた「最適な治療」の提案
DCBは魅力的な治療ですが、すべての病変でDCBが最善というわけではありません。
病変の性状・血管径・全身状態などを踏まえ、ステント治療、DCB治療、そのほかの選択肢の中から、その方に最善と考えられる治療法をご提案させていただきます。
5 DCB治療の対象となる方・ならない方
DCBが適している可能性がある方
- 小血管の狭窄がある方
- 血管に金属ステントを残したくない方
- 将来のカテーテル治療やバイパス手術など、治療の選択肢をできるだけ残したい方
- 長期間の二剤抗血小板薬の継続が難しい、または出血リスクが高い方
DCBが適さない、または慎重な判断が必要な場合
- 強い石灰化があり、十分な拡張が得られにくい病変
- バルーンで広げた後に大きな解離(血管の裂け目)が残り、血流に支障をきたす場合
- 血流が不安定な急性期の病変(急性心筋梗塞など、一部の症例)
- 血管径が大きすぎる、あるいはデバイス適応を超える場合
このように、DCB治療は適応が限定される治療であり、
「希望すれば誰でも受けられる治療」ではありません。
当院では個々の患者さんについて、安全性と有効性のバランスを最優先に検討し、DCBが適していると判断された場合にご提案いたします。
6 よくあるご質問(Q&A)
Q1. 「ステントを使用しないカテーテル治療」と聞くと不安なのですが、大丈夫でしょうか?
A. DCB治療は、国内外で多くの研究やレジストリーにより、安全性と有効性が検証されつつある治療です。
ただし、すべての病変に適しているわけではないため、当院では慎重に適応を判断したうえで行っています。
Q2. すでにステントが入っていても、DCB治療は受けられますか?
A. すでにステントが入っている部分(ステント内再狭窄)に対しても、DCBが検討される場合があります。ただし、病変の状態によって最適な治療は異なりますので、まずは一度、画像検査を含めた評価が必要です。
Q3. DCB治療を受けた場合、通院やお薬はどうなりますか?
A. 通院スケジュールや内服期間は、病変の状態・全身のリスクによって個別に決定します。
一般的には、ステント治療と同様に一定期間の抗血小板薬が必要ですが、症例によっては二剤抗血小板薬の期間を短くできる可能性があります。
7 受診・ご相談をご希望の方へ
「ステントを使用しないカテーテル治療に興味がある」「自分の場合にDCBが適しているか知りたい」など、
ご不安やご質問がありましたら、お気軽に当院にご相談ください。
外来受診時には、これまでの検査結果やお薬手帳をご持参いただくと、よりスムーズに評価が行えます。
患者さん一人ひとりの背景を踏まえながら、最も安全で、将来も見据えた治療方針をご提案いたします。