新しいカテーテルによる高血圧治療
高血圧に対する新しいカテーテル治療である腎動脈交感神経焼灼術(RDN: renal denervation)が本邦でも承認され、2026年度には実臨床での使用が可能となります。
日本では治験開始当初から約10年以上経過し、どの程度の降圧効果が期待できるのか、どのような患者に有効であるのか、さらには長期成績についても、これまでの臨床研究から次第に明らかになってきました。
治療抵抗性高血圧症でRDNを検討される患者様がいらっしゃいましたら、本邦で最も経験豊富な当院にご紹介いただければ幸いです。
1 これまでの高血圧治療の限界
本邦には約4,300万人の高血圧患者がいるといわれていますが、治療を受けているのはその約50%、さらに目標血圧にコントロールされているのはその半分の約25%にとどまり、諸外国と比較しても低い水準と言われています。
降圧療法の基本は塩分制限や運動療法などの生活習慣改善と降圧薬による治療ですが、実際には降圧薬による治療が中心となります。しかし、薬剤アドヒアランスの問題や診療上の惰性(診断・治療イナーシャ)など限界が指摘されています。また、降圧薬は一度開始すると生涯にわたって服用し続けることが多く、年齢とともに薬剤が追加されることが多く「life-long polypharmacy」という問題もあります。
さらに、二次性高血圧が否定されても、多剤併用にもかかわらず血圧コントロールが得られない治療抵抗性高血圧患者も一定数存在し、その対応に苦慮することがあります。こうした現状を改善する新しい治療法として開発されたのが腎動脈交感神経焼灼術(RDN)です。
2 Renal Denervation (RDN)とは
RDNはカテーテルを用いて腎動脈周囲の交感神経を焼灼し、過剰な交感神経活動を抑制することで血圧を低下させる治療法です。本邦では高周波と超音波を用いた2種類のカテーテルデバイスが承認されています。
(1) 高周波によるRDN (図1)
ニチノール製のらせん状カテーテル(SPYRALカテーテル)を使用し、電極4つを血管断面の上下左右に配置することで均等な焼灼が可能です。高周波を1分間焼灼し、腎副動脈を含む両側腎動脈に対して焼灼を行います。
(2) 超音波によるRDN (図2)
先端に直径3.5〜8 mm、長径15 mmのバルーンを備えたカテーテルを使用します。バルーン内に冷却水を満たし、血管径に応じたサイズのバルーンを選択し、1か所7秒間超音波を照射することで全周性に除神経を行います。両側腎動脈本幹で最低2か所以上、腎副動脈に対しても血管径に応じて施行します。
これらのデバイスを用いたシャム手技を対象とした複数のランダム化試験により、診察室収縮期血圧が平均約10 mmHg低下することが報告されています。(図3)
さらに、24時間持続的な降圧効果が得られ、降圧薬でコントロールしにくいモーニングサージや夜間高血圧にも有効と考えられています。
3 RDNの適応
RDNは降圧薬を服用していない高血圧患者にも有効であることが示されています。しかし、侵襲的手技でありコストもかかることから、本邦では適応が厳格に定められています。
日本高血圧学会(JSH)・日本心血管カテーテル治療学会(CVIT)・日本循環器学会(JCS)の合同委員会による基準では、利尿薬を含む3剤以上の降圧薬を使用しても降圧目標に到達しない腎機能保持例に限定されています。
患者基準(案)
血圧コントロール不良を判定する前に確認すべき事項(選択基準)
生活習慣改善状況、服薬遵守状況、降圧薬の種類と処方量、正しい血圧測定と降圧目標レベルの確認、二次性高血圧の除外
コントロール不良の血圧基準(選択基準)
①診察室血圧が140/90 mmHg以上、かつABPMで24時間血圧が130/80 mmHg以上、昼間血圧が135/85 mmHg以上、又は夜間血圧が120/70 mmHg以上 又は
②診察室血圧が140/90 mmHg以上、かつ早朝若しくは就寝前家庭血圧が135/85 mmHg以上、又は夜間家庭血圧が120/70 mmHg以上
治療抵抗性高血圧(選択基準)
利尿薬を含む異なったクラスの3剤以上の降圧薬治療でコントロール不良の高血圧
ただし利尿薬以外の降圧薬は原則、最大忍容量を用いる。
腎デナベーションが不適格な患者(除外基準)
- 腎動脈瘤、腎動脈狭窄や治療に不適格な腎動脈の解剖学的構造を有する患者(造影CT評価を基本とする)
- eGFR <40 ml/min/1.73 m2
- 添付文書の禁忌・禁止事項に該当する患者
日本高血圧学会(JSH)・日本心血管カテーテル治療学会(CVIT)・日本循環器学会(JCS)の合同委員会による基準では、利尿薬を含む3剤以上の降圧薬を使用しても降圧目標に到達しない腎機能保持例に限定されています。
4 RDNのレスポンダー(奏功する患者)
RDNは過剰な交感神経活動が持続している患者に特に有効と考えられています。全ての患者に効果があるわけではなく、臨床研究からはRDN前の血圧が高い患者や心拍数が高い患者は特に効果が高いとされています。その他、下記のような因子が臨床研究からRDNの効果が出やすいと報告されております。
RDNのレスポンダーの特徴
- Higher HR
- Higher baseline BP
- Lower PWV
- OHTN (Orthostatic hypertension)
- Higher PRA (Plasma renin activity)
- OSAS (Obstructive Sleep Apnea Syndrome)
- BP variability
- Renal insufficiency ?
- Some biomarkers (higher sFlt-1, ICAM-1, VCAM-1, Gal-3, CRP, IL-1)
- Impaired cardiac BRS (baroreflex sensitivity)
- Higher TAC/cTAC (total arterial compliance)
- Lower cPP (central pulse pressure)
- Lower AASI (ambulatory arterial stiffness index)
一方で、高血圧の罹患期間が長く、血管がすでに硬化している患者では効果が得られにくいと報告されています。
5 RDNの長期成績
当初は、神経再生によって数年で効果が消失するのではないかと懸念されていました。しかし、長期フォロー研究の解析では、むしろ遠隔期ほど降圧効果が増強するという報告が数多く報告されています。 平均4.4年のフォローのメタアナリシスでは診察時収縮期血圧が平均で24 mmHg低下するという報告があり、施行10年後も降圧効果が持続することが確認されてきています。
6 最後に
新しい降圧療法であるRDNは、カテーテルを用いた侵襲的治療ですが、安全性は高く、既存の降圧療法に加えて診察室収縮期血圧を約10 mmHg低下させる効果が期待されます。また、長期成績も報告されてきており降圧効果は持続しています。現時点では利尿薬を含む3剤以上の降圧薬を使用してもコントロールできない治療抵抗性高血圧症が対象で、2026年度から実臨床で使用可能となり、その普及と有効性が期待されています。