脳卒中予防−脳を守る心臓の治療−
(経皮的左心耳閉鎖術・経皮的卵円孔開存閉鎖術)

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脳卒中を予防するための“心臓”カテーテル治療

心臓は全身に血液を送るポンプとして働いていており、脳循環にも影響を及ぼします。心臓と脳は極めて関係性の強い臓器といえます。不整脈の一つである“心房細動”は主に年配の方の脳梗塞の原因として知られています。一方で、“卵円孔開存”は心臓の心房間の血液の交通を可能にするため、主に若年者の脳梗塞の一因となることがあります。

 

脳梗塞になると再発予防のために血液をサラサラにする抗血栓薬を服用することがほとんどです。抗血栓薬の強弱に頼らない、脳卒中の予防効果を高める心臓のカテーテル治療が近年日本でも可能となっております。

心房細動を有する方の脳卒中予防のカテーテル治療が“経皮的左心耳閉鎖術”、卵円孔開存を有する方の脳梗塞再発予防のカテーテル治療が“経皮的卵円孔開存閉鎖術”です。

 

これらの治療は脳卒中の“予防”治療となります。予防治療になりますので、目的や効果などを十分理解した上で治療の選択をされることが重要であり、カテーテル治療を受けない選択も尊重される必要があります。本治療の内容や説明だけ聞きたい方もご相談いただけます。

経皮的卵円孔開存閉鎖術

経皮的左心耳閉鎖術

経皮的左心耳閉鎖術とは?

―心房細動と診断されて、血をサラサラにする薬を服用されていませんか?-

心房細動は不整脈の一種です。心房細動そのものを治療するのがカテーテルアブレーション治療です(「不整脈」をご参照ください)。心房細動は脳梗塞の原因となり、一定のリスクをお持ちの方は抗血栓薬を脳梗塞予防のために服用することが推奨されておりますが、抗血栓薬を長期間服用する場合は出血を起こしてしまうことがあります。出血を起こして困ったことがある、もしくは出血を起こす可能性が高い方が適応となる脳卒中予防の治療が“経皮的左心耳閉鎖術”です。

心房細動があると脳梗塞を起こしやすくなる理由は、心臓の左上方にある左心耳などに血栓ができ、それが血流にのって脳など全身の臓器に流れるためです。左心耳は袋のような形をしておりますが、ここに血栓ができないよう閉鎖栓でふたをすることで血栓形成を予防する治療が経皮的左心耳閉鎖術になります。この治療はカテーテルを用いた治療であり、全身麻酔で行いますが、傷は小さく、翌日から歩いて頂くことが可能です。

経皮的左心耳閉鎖術は脳梗塞になったことがある人にも、脳梗塞になったことがない人にも可能な予防治療になります(一次予防、二次予防ともに可)。

経皮的左心耳閉鎖術の流れ

外来で左心耳の形や大きさを把握するために、経食道心エコー(胃カメラのような心エコー検査)と心臓CTを施行します。治療の前日に入院し、当日に向けて点滴を行います。カテーテル治療は全身麻酔の後に、太ももの付け根の静脈からカテーテルを出し入れするためのシース(プラスチックの管)を挿入します。その管から右心房と左心房を仕切っている心房中隔まで針を進め、心房中隔に穴をあけてガイドワイヤーを挿入します。ガイドワイヤーに沿わせて約5mm径のガイドカテーテルを左心房内から左心耳に挿入します。ガイドカテーテルを通して、閉鎖栓を左心耳まで持ち運び、嵌めるように置いて左心耳を閉じてしまいます。カテーテルを抜き、治療は終了となります。翌日から歩いて頂けます。術後の状態を確認し、翌々日退院となります(通常入院期間:3泊4日)。

経皮的左心耳閉鎖術のメリット

経皮的左心耳閉鎖術により左心耳がしっかりと閉鎖された場合には、治療後約2~6か月より抗血栓薬を弱くできます。具体的には、心房細動の脳梗塞予防に用いられることが多い“抗凝固薬”を“抗血小板薬”に変更できます。抗血小板薬そのものは心房細動を有する方の脳梗塞予防効果は高くありませんが、脳出血が起こりにくくなります。経皮的左心耳閉鎖術を受けられた方では抗血小板薬の服用でも抗凝固薬とほぼ同等の(脳梗塞と脳出血を併せた)脳卒中予防効果が期待できます。また、脳出血が減ることで後遺症の大きな脳卒中を減らすことができるといわれています。

どのような方に経皮的左心耳閉鎖術は有効か?(適応)

“心房細動”を有している方で脳梗塞予防の抗血栓薬服用が必要な方が対象になります。そのうえで、抗血栓薬を服用することで、出血を起こす可能性が高い方もしくは実際に出血を起こして困ったことがある方などが適応となります。個々の患者さんの適応は医師の判断によりますが、「血をサラサラにする薬を飲んでいるのだけど、昔出血したことがあるのでまた出血しそうで怖いなぁ」と考えている心房細動患者さんはよい適応になると思われます。

経皮的卵円孔開存閉鎖術

経皮的卵円孔開存閉鎖術とは?

―若くして脳梗塞と診断されたのに原因が不明?―

原因不明の脳梗塞を潜因性脳梗塞といいます。この潜因性脳梗塞の中に、(厳密には原因不明だが)おそらく“卵円孔開存”が関係したと考えられる脳梗塞をきたした方がいます。

卵円孔開存は心臓に空いている小さな穴です。この穴は赤ちゃんのとき生まれる前は全員に空いておりますが、多くの方で出生後に閉鎖します。約4人に1人の頻度で大人になってもこの穴が閉鎖せず開いたまま(卵円孔開存)の方がいるとされております。若年者などでこの卵円孔開存が脳梗塞の原因となることが報告されており、機序としては下肢などの静脈にできた小さな血栓が卵円孔開存を通過して動脈系に混入し脳梗塞などの塞栓症を起こすことが考えられています。

“卵円孔開存閉鎖術”はこの卵円孔開存という心臓の穴を閉鎖栓で挟むように閉じて血栓などが血流に乗って通過しないようにすることで脳梗塞の再発を予防する治療になります。この治療はカテーテルを用いた治療になり、全身麻酔で行いますが、傷は小さく、翌日から歩いて頂くことが可能です。この経皮的卵円孔開存閉鎖術は脳梗塞になったことがある人の“再発”予治療になります(二次予防のみ可)。

経皮的卵円孔開存閉鎖術の流れ

外来で卵円孔開存の診断を確実にするために経食道心エコーや点滴をしながらの経胸壁心エコー(コントラスト心エコー)を追加することがあります。通常は治療の前日に入院します。カテーテル治療は全身麻酔の後に、太ももの付け根の静脈からカテーテルを出し入れするためのシース(プラスチックの管)を挿入します。その管から右心房と左心房を仕切っている心房中隔までガイドワイヤーを進め、卵円孔開存を通過させます。ガイドワイヤーに沿わせて約4mm径のガイドカテーテルを左心房内から左心房に挿入します。ガイドカテーテルを通して、閉鎖栓を左房まで持ち運び挟み込むように置いて卵円孔を閉じてしまいます。カテーテルを抜き、治療は終了となります。翌日から歩いて頂けます。術後の状態を確認し、翌々日退院となります(通常入院期間:3泊4日)。

経皮的卵円孔開存閉鎖術のメリット

経皮的卵円孔開存閉鎖術を受け必要に応じて抗血栓薬を続けた場合、卵円孔を閉鎖せずに抗血栓薬だけによる治療を続けた場合に比べて、約3~6年後の脳梗塞の再発率が低下する効果があると報告されております。予防治療になりますので効果を実感することは難しいですが、治療後は将来的な脳梗塞の再発率は下がっているはずです。治療後も原則的には抗血小板薬の服用は続けますが、治療の約6か月~1年後以降に脳神経専門医と相談して中止する場合もあります。

どのような方に経皮的卵円孔開存閉鎖術は有効か?(適応)

 “潜因性脳梗塞(原因不明の脳梗塞)”を診断された方が対象になります。高齢になりますと動脈硬化や心房細動による脳梗塞の頻度が高くなるので、原則的には60歳未満の方が対象となります。“卵円孔開存”を有していることがカテーテル治療の前提になりますが、若年で脳梗塞を診断された方で卵円孔開存の有無を確認されていない方もご相談いただけます。また、卵円孔開存を介した脳梗塞は原因となる塞栓子が卵円孔開存を通過して発症すると考えられております。急に立ち上がったときなどお腹に力が入ったときに卵円孔開存を塞栓子が通過しやすくなりますので、このようなときに脳梗塞を発症した方では卵円孔開存に起因していた可能性があります。また、片頭痛は卵円孔開存との関連性がありますので、“目の症状を伴う片頭痛をお持ちの若年脳梗塞患者さん”は卵円孔開存の有無を確認する検査が勧められます。

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聖路加国際病院の強み

診療科間の連携

脳卒中専門医を含む脳神経の専門医とブレインハートカンファレンスを開催しております。本治療は脳卒中の予防治療であり、脳梗塞の原因やリスクなどを含めて治療方針を考える必要があるため、脳神経系のエキスパートオピニオンが反映されやすい体制をとっております。また、手術のリスクの高い患者さんを対象にする上で、併存疾患の管理は必要不可欠です。当院では、多くの診療科が揃っており、診療科間の連携を大事にしているため、心臓疾患以外の疾患に対しても、安心して専門的なサポートを受けることができます。

全室個室を特徴とする安全・安心・快適な療養環境

術後の経過が良好であれば手術翌日には一般病棟に移りますが、当院は一般病棟が全て個室になっており、静かな環境でリラックスした入院生活が可能です。ご自身のプライバシーが守られるのはもちろんのこと、他の患者さんからの感染リスクを低減することができる、安心・安全な環境を提供します。

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